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平尾の歴史(史跡) 散策 第1話 容見天神発祥の由来 |
平尾の歴史(史跡) 散策 第2話 飢人地蔵尊祭り |
平尾の歴史(史跡) 散策 第3話 野村望東尼 |
平尾の歴史(史跡) 散策 第4話 平尾村の今昔ばなし |
平尾の歴史(史跡) 散策 第5話 時には横道にそれますが |
平尾の南西部の閑静な住宅街の一角に(平尾5丁目)、【平尾山荘――地元ではもっぱら望東(ぼうとうさん)】と親しまれている、茅葺きの陋屋(ろうおく)が静かに佇んでいる。平尾の歴史的史跡としては、これ抜きにしては語れない位に、文化的に貴重な茅屋である。
日本の近代化の端緒となった『明治維新』において、只一人のたぐいまれなる女流勤皇家(兼)歌人――野村望東尼――通称モト。
若い時から歌道に親しんでいたが、夫の他界後一念発起して歌道研鑽をめざし京へ・・・そこで生々しい勤皇倒幕等の志士達の心意気に触れ合い、自らも傾倒。地元に帰ってからも、秘かに志士達の活動を陰ながらバックアップ。そのことが藩に知れ、糸島の離れ小島【姫島】にて幽閉さる。それを伝え聞いた高杉晋作は奇兵隊を使い救出。まさに男顔負けの破天荒な『あっ晴れ女流勤皇家』ぶりであったとか。
そこで今回は、少々浮世ばなれした四人の風来坊――ご隠居さんに若旦那、すっとぼけの八五郎に熊五郎と云った、お邪魔虫を先導役にしながら、モト尼女史の実像と云うか、何故志士達が平尾山荘の茅屋に結集していたのか、そこいら辺りの《ムムムッツ》とした所に焦点をあてつつ『タイムスリップ流の空想をたくましくしながら、ドラマを展開してみたいと思います。お付き合いのほどお願い致します。
尚、挿絵の手配書(似顔絵)は、平尾校区の剣道場【一到館】道場のオーナー王丸家に秘蔵されていた、貴重な資料からの引用です。
【登場人物】
ご隠居・若旦那・八五郎・熊五郎
八 | 熊、今日は何の日か、知ってるけ? |
熊 | 霜月の6日か・・・ハテ? 何の日でしたっけ、若旦那? |
若 | 望東さんの祭りだ。お主も平尾の住人だろうが! こんなの常識常識。 |
隠 | そもそもじゃな、明治維新を陰で支えた『野村モト尼』と云う、平尾校区が誇る女傑(じょけつ)を讃(たた)える慰霊祭のことじゃ。(毎年11月6日に挙行) |
若 | 元々は赤坂けやき通りの柳原の地で生まれ育った人なんだが、ご亭主と死に別れた後、歌人として平尾の奥里(おくざと)に草庵(そうあん)を編(あ)み、傍(かたわ)ら維新の志士達を陰で支えたと云う、日本の歴史に燦然と輝く、女流勤皇家なんだぞ。 |
八 | ヘーッ、で、維新の志士って、一体どんな人物でやす? |
隠 | 長州の高杉晋作を初め、地元黒田藩の平野二郎國臣、それに驚くなよ薩摩の西郷隆盛じゃ。 |
熊 | そ、そんな歴史上の超大物連中を、女の細腕で支えたってんでやすかい! |
八 | そいつは恐れ入谷の鬼子母神! ほんじゃ若、得意の『四次元テレビマシン』で、当時の様子をのぞき見るってのは、いかがなもんでやす? |
若 | ウム、祭りの盛り上げに、ひとつ大奮発して当時を再現してみるとするか! |
西郷 | 高杉どん、貴公が平尾村の草庵に忍んでいると聞き、尋ねたんじゃが・・ |
高杉 | これは誰かと思えば、西郷南州(なんしゅう)公、よくぞここが分かりましたな。 |
西郷 | 隠れ住むには格好の茅屋(ぼうおく)、幕府転覆の密議には持ってこいの・・・ |
平野 | 幕府転覆の密議とは、穏やかならざる言い分でござるな。 |
西郷 | ヤヤッ、平野殿もご同席か!益々もって怪しき企(たくら)みの最中(さいちゅう)と見ゆる。 |
平野 | 怪しき企み? そりゃぁ飛んでもない誤解でござる。 |
高杉 | 我等は、ただ息抜きにこの山荘にたてこもってるだけでござるよ。 |
西郷 | ただの息抜きじゃっと? 長州や黒田藩切っての勤皇の志士が、こんな草深きド田舎で、一体何の息抜きにごわすか。 |
モト | ド田舎で悪うござんしたね、南州公さま。 |
西郷 | ややっ、これはモト尼のごりょんさん、アンタも一枚加わってござったか。いつ京の都を放れ、こちらに身を隠してごわす? |
モト | 身を隠すなんて、人聞きの悪いこと! ここは【平尾山荘】云うて、元々私が老後を過ごすため、秘(ひそ)かに編んだ『隠れ里』どすえ。 |
西郷 | まことでごわすか? なにやら狐にでも鼻つままれた様な気分でごわす。 |
モト | ホッホッホッ、折角尋ねられたこと故、粗茶なと進ぜまひょ。しばしお待ちを・・・ |
平野 | さて、南州公にお茶など、似合い申さぬ。まもなく日も傾いて来もそう。されば、ササ(酒のこと)などいかがでござる。 |
西郷 | 酒? 望む所なれど、息抜きならば息抜きらしゅう、博多には確か『柳町』とか申す、祇園にも劣らぬ出会い茶屋があるはず! |
高杉 | 西郷どん、それがし達が態々この草深き奥里『平尾山荘』を選びし訳は・・ |
平野 | 大きな声では申せぬが、実は、この山荘の裏手には、奥の院があり申す。 |
高杉 | 都を追われた祇園の芸妓(げいぎ)衆が、秘かに匿(かくま)われてござる。 |
西郷 | ナ、ナヌ! 都を追われた芸妓・舞子達が、匿われておるじゃっと!! |
平野 | 京で『桂小五郎・月形半平太』と云った同志達と、接触のあった芸妓達は、皆幕府の犬どもに狙われてござる。 |
西郷 | ウムウム、あの連中達は倒幕論の急先鋒でごわすからのォ。なーるほどそう云う訳か! |
高杉 | ふっふっふっ、そう云う訳でござる。 |
西郷 | 祇園のピカイチ芸妓衆が、こぞってやって来たとなれば、博多の芸者衆を鼻にもかけぬ、お主達の下心、見えたぞ、見えたぞ!! |
平野 | イッヒッヒッヒッ、お分かりかな、南州どん? |
西郷 | 分かった、分かった、分かり申した! となると、月形お気に入りの『雛菊(ひなぎく)』や桂が贔屓(ひいき)にしていた『お龍さん』も、揃(そろ)ってごわすか? |
高杉 | 南州公、鼻の下が伸びて来ており申すぞ! |
西郷 | 早速ながら、久しぶりに『雛菊』の顔でも拝みとうごわす。 |
高杉 | ところがどっこい、ひとつだけ難問がござる。 |
西郷 | 難問じゃっと? さては金(カネ)でごわすか? |
平野 | いやいや、カネではござらぬ。和歌、短歌でござるよ。 |
高杉 | モトニのごりょんさん、明けても暮れても『五・七・五・七・七』の和歌の道にご執心(しゅうしん)でござる。 |
平野 | 芸妓衆にも、連日五・七・七の猛特訓をしてござって・・・ |
高杉 | あの妓(こ)等と遊ぶにも、和歌詠みの素養がないことには、呼んでも貰えぬ。 |
西郷 | たかが芸者遊び如きに、『五・七・五』の語呂合わせとは、武士(もののふ)にもあるまじきたわけた話。そんなことじゃ腑抜(ふぬ)けになり申すぞ! |
モト | これからの新制日本を切り開いて行くには、進取の精神と粋(いき)な風流心が必要どす。【浮雲の かかるもよしや 武士の 大和(やまと)心の 数に入りなば】どすえ、南州公さま。 |
平野 | 郷(ごう)に入れば郷に従うと申す。貴殿も薩摩流の風流心を持ち合せてござろうに。 |
西郷 | 風流心じゃっと? されば・・・『山荘の 奥の院を 尋ぬれば・・』 |
高杉 | フムフム、『山荘の 奥の院を 尋ぬれば』か、なかなかいい調子ですぞ |
西郷 | 『女狐(めきつね)どもに 魂(たま)抜かるらん』 こんなもんでどうでごわす・・がっはっはっ! |
モト | ほっほっほっ、見かけによらず上出来どすえ。では、南州公の折角(せっかく)の苦心作ゆえ、『女狐の 袖追う侍(ぶし)の 鼻の下 小田原(おだわら)提灯(ちょうちん) にもさもにたり』 と受けましょう。 |
平野 | 流石(さすが)はモトニのごりょんさん、南州公、一本とられましたな。 |
モト | いつのまにやら、灯(ひ)ともし頃になりました。女狐さん達も待ちかねておりましょう。ささ、隠れ里の方へ足をお伸ばしなされませ。 |
八 | あれれっ、『ひな菊』ちゃんや、お色気たっぷりの『お竜姉さん』が、現われるんじゃなかったっけ? |
熊 | 『月さま、雨が・・・』 『春雨じゃ、濡(ぬ)れて参ろう』テナ具合に・・・ |
若 | 何を寝ぼけたことを言ってる! 『四次元テレビマシン』は終わりだ。 |
隠 | モト尼媼(おうな)の生誕200年を記念する、厳粛(げんしゅく)なる慰霊祭の最中だぞ。いかに座興とは云え、そんな助平根性丸出しにするとは、平尾校区の恥さらしじゃ。 |
八 | とは云ってもさ、昔から『歴史の陰に女あり』って云うじゃござんせんか! |
隠 | まぁ確かに『歴史の裏に女あり』とは、一面の真理ではあるがの・・・ |
熊 | さいでやしょ、だからさ、あっし等モトニごりょんさんに、スポットライトを当てて上げようとの、親心で・・・ |
若 | さしづめ『維新の陰にモトニ嫗(おうな)あり』とでもか! 維新前夜、勤皇の志士達は、夜な夜な祇園辺りへ繰り出し、【酔うては枕す美人の膝、醒(さ)めては握る天下の権】とばかりに、徳利片手に祇園大路を闊歩(かっぽ)してたとか・・・ |
八 | さいでやしょ! 男が一肌・二肌脱ぐにゃ、やっぱり綺麗どころのトチチリシャンがいなくっちゃ、さまになりやせんぜ。 |
熊 | 『お富士さん 霞(かすみ)の帯(おび)を 解かしゃんせ 雪の肌身(はだえ)が 見とうござんす』とくらぁ。 |
八 | 『恋に焦(こ)がれて 鳴く蝉よりも 鳴かぬホタルが 身を焦(こ)がす』ってね。 |
熊 | 『色が黒くて 貰い手がなけりゃ 山のカラスは 後家ばかり』っと。 |
隠 | 何やっとんじゃ。誰が何と言おうと、モトニ嫗には志士達の結束を促した【紅の 大和錦も 色々の 糸まじえてぞ 彩(あや)は織りける】が一番お似合いじゃ。 |
若 | 決まりですな! そんじゃ、八と熊とが余計な下心を燃やさぬ内に、さっさと引き上げやしょう。 |
隠 | それがええ、それがええ。ほれほれ、ぽけっとしてないで、引きあげますぞ! |
終わり |